大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成2年(ワ)16459号 判決

原告(反訴被告)

有限会社カメリア企画

右代表者取締役

林桂子

右訴訟代理人弁護士

村上愛三

会田哲也

被告(反訴原告)

日本通運株式会社

右代表者代表取締役

長岡毅

右訴訟代理人弁護士

山田克巳

山田勝重

山田博重

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金五五六万四〇六〇円及びこれに対する平成二年一一月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金三一三万七〇〇〇円及びこれに対する平成二年一一月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五分し、その一を被告(反訴原告)の負担とし、その余を原告(反訴被告)の負担とする。

五  この判決の第一項と第三項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴請求について)

一  請求の趣旨

1 被告(反訴原告。以下「被告」という。)は、原告(反訴被告。以下「原告」という。)に対し、金二五六八万九一一四円及びこれに対する平成二年一一月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴請求について)

一  請求の趣旨

1 主文第三項と同旨

2 反訴費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 反訴費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴請求について)

一  本訴請求原因

1 原告は、動植物の育種、輸出入及び販売等を業とする会社であり、被告は、各種の運送事業等を業とする会社である。

2 原告は、平成二年三月二〇日頃、被告に対し、原告が南アフリカ共和国から船便で輸入し、同月二六日付けで横浜港コンテナヤードに着荷したコンテナ三台分のオニソテツ(五〇四本)及びスタンゲリア属ソテツ(六本)合計五一〇本(以下「本件ソテツ」という。)の通関手続一切を委任した。

3 しかるに、被告の作業手配の不手際により、本件ソテツの荷揚げ作業、植物検疫検査、殺虫のための燻蒸作業等が大幅に遅延し、最終的に通関手続が完了し、本邦内の納入予定先に出荷できたのは、着荷後約二か月を経過した平成二年五月二一日であった。そのため、長期間にわたり本件ソテツをコンテナ内に収納したままの状態が継続した結果、ソテツが枯死するなどの被害が生じた。

4 その結果、原告は、次のとおりの損害を被った。

(一) 枯死による損害

九六二万円

本件ソテツのうち三一六本が枯死した。ソテツ一本当たりの輸入価格は二〇三米ドルであり、代金決済時の為替相場(一ドル一五〇円)により計算すると、右枯死による損害は九六二万円余となる。

(二) 仮植え費用

売却予定先である訴外財団法人進化生物学研究所(以下「訴外研究所」という。)に本件ソテツの引取りを拒否されたことにより、仮植えが必要となり、次の費用の支出を余儀なくされた。

①植込、管理費用

三八三万一六〇〇円

②ビニールハウス代金

九二万七〇〇〇円

③運送代金 八〇万五四六〇円

合計 五五六万四〇六〇円

(三) 再仮植え費用

前記(二)の仮植えのための土地の使用期間が一年のみに制限されているため、次年度に、再度仮植えするための費用が必要となる。

①植込、管理費用

三八三万一六〇〇円

②ビニールハウス代金

九二万七〇〇〇円

③運送代金   四〇万二七三〇円(短距離のため(二)③の半額)

合計 五一六万一三三〇円

(四) 逸失利益 八九六万円

本件ソテツの訴外研究所に対する売却予定価格(二五万米ドル)から輸入原価(一〇万米ドル)、運送料(一四二万九四九四円)、通関手数料等(三一三万七〇〇〇円)を控除した得べかりし利益約一七九三万円の少なくとも半額である八九六万円相当額の利益を失った(一ドル一五〇円換算)。

(五) 調査費用

三二万六一八四円

本件損害に関する調査費用である。

5 原告は、平成二年一〇月二五日到達の書面をもって、被告に対し、前項の金員を同年一一月五日までに支払うよう催告した。

6 よって、原告は被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、以上合計二九六三万一五七四円のうち二五六八万九一一四円及びこれに対する平成二年一一月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1 本訴請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、ソテツの種類、内容は知らないが、その余は認める。

3 同3のうち、本件ソテツを平成二年五月二一日に訴外研究所において引き渡したことは認めるが、その余は否認する。

本件ソテツの現地出荷時の品質、生育状況、保管状況等については何ら確認されていないし、本件ソテツの枯死等の被害の発生原因についても明らかでなく、通関手続の遅延と本件ソテツの被害との因果関係は不明である。

4 同4は争う。

5 同5の事実は認める。

三  抗弁

本件において、通関手続が通常の場合に比較して遅延したとしても、それは、本件ソテツの量が大量であり、検疫スペースがなかなか確保できなかったこと、植物検疫日が実質的に制限されていたこと、検疫日当日の作業員の確保、天候、ゴールデンウイーク前後の検疫貨物の混雑、燻蒸倉庫手配の困難性等の事情によるものであって、被告の責めに帰すべき事由によるものではない。

四  抗弁に対する認否

否認する。

(反訴請求原因)

一  反訴請求原因

1 本訴請求原因1と同じ。

2(一) 被告は、平成二年三月二〇日頃、原告から、同年三月二六日に到着する本船から横浜港コンテナヤードに集荷する本件ソテツの輸入通関手続の委任を受けた。

(二) 被告は、本件ソテツについて植物検疫申請の代行手続をとり、同年四月二三日検疫作業が実施され、検疫官の指示により、燻蒸作業の手配をし、同年五月一六日燻蒸作業が実施された。

(三) 被告は、平成二年五月一七日、本件ソテツの輸入申告手続し、輸入許可を取得した後、同月二一日、荷渡先である訴外研究所まで本件ソテツを輸送した。

(四) 右(二)、(三)の業務による通関料、保管料、燻蒸料等は、合計三一三万七〇〇〇円である。

3(一) 被告は、平成二年六月頃、原告から、本件ソテツを訴外研究所から引き取り、清水市の静鉄緑化土木株式会社に配達するよう依頼を受け、これらの搬出、積込み、、輸送、搬入等の作業を請け負い、すべての作業を完了した。

(二) 右代金は、合計八〇万五四六〇円である。

4 被告は、平成二年一一月八日到達の書面をもって、原告に対し、右代金合計三九四万二四六〇円を同月一五日までに支払うよう催告した。

5 よって、原告は、被告に対し、運送代金等合計三九四万二四六〇円のうち訴外研究所から弁済を受けた八〇万五四六〇円を控除した残額三一三万七〇〇〇円及びこれに対する平成二年一一月一六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1 反訴請求原因1は認める。

2 同2の(一)ないし(三)の事実は認めるが、(四)は争う。

3 同3の(一)は認めるが、(二)は争う。

4 同4の事実は認める。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

(本訴請求について)

一本訴請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

同2のうち、原告が、平成二年三月二〇日頃、被告に対し、原告が南アフリカ共和国から船便で輸入し、同月二六日付けで横浜港コンテナヤードに着荷した本件ソテツの通関手続一切を委任したことは、当事者間に争いがない。

二そこで、その後の経緯についてみるに、〈書証番号略〉、証人佐藤健一、同大城憲生、同渡辺晃三郎、同林雅彦の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  被告は、平成二年三月二八日、原告から船積書類の送付を受けたが、本件ソテツについては植物防疫法に基づく植物検疫手続を受ける必要があったため、被告がその申請の代行手続をとることとなり、そのため荷主である原告名義の輸入検査申請書を用意する必要があった。本件を担当した被告の職員は、生きた植物の通関手続を取り扱うのは初めてであり、右申請書は一通で足りるのに、本件ソテツの一本ごとに申請書を作成する必要があると誤解して、その書類の準備に手間取り、同年四月六日になって、ようやく原告のもとに赴き、右申請書に原告の押印をもらった。

2  被告は、同年四月一八日、右申請書を検疫所に提出して受理され(申請書の提出、受理が何故そのように遅れたかについては定かでない。)、同月二三日に検疫作業が実施された。その間、何度か検疫作業を予定した日があったが、作業員の手配を頼んだ住友倉庫と被告との連絡が十分でなかったことなどもあって、延び延びになってしまい、ようやく同月二三日になって実施できた。なお、同月中旬頃には、原告の林雅彦や山形貿易株式会社の渡辺晃三郎から、被告に対し、手続を速めるようにとの催告がされたこともあった。

3  右検疫当日の四月二三日、一つのコンテナを開けたところ、虫が発見されたため、検疫官より燻蒸を要するとの指示がなされ、右コンテナは再び封印され、残り二つのコンテナは全然開けられないまま当日の作業は終了した。当日は、林雅彦、渡辺晃三郎も立ち会ったが、開けたコンテナ内のソテツの状態はかなり悪化しており(しかし、まだ緑の部分も残っていた。)、検疫官も何故こんなに遅くなったのかと発言していた。

4  被告は、燻蒸専用倉庫を探したが、予定が詰まっているなどといわれ、なかなか手配することができないでいたが、同年五月七日になって、原告から通関手続の可及的早期の完了を求める通告書が送られてきたことから、翌八日会議を開き、至急倉庫を探すこととしたところ、まもなく、倉庫を確保することができ、同月一六日に燻蒸作業を実施することとなった。

5  かくして、同年五月一六日、燻蒸作業が実施され、被告は、翌一七日に本件ソテツについて輸入申告手続を行い、翌一八日付けで輸入許可を得、ようやく通関手続を完了することができた。

6  ところで、検疫を必要とする植物であっても、特段のことがない限り、一週間ないし一〇日程で通関手続を完了することができるのが通常であるが、本件においては、通関手続が完了するまでに約二か月弱の期間がかかっている。その間、本件ソテツは、コンテナ内に収納されたままの状態が続き、通関手続を完了した時点では、そのかなりの本数について葉が枯れるなどの被害が生じるに至った(なお、本件ソテツが南アフリカ共和国を出港したのは平成二年二月末頃であった。)。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(なお、証人大城憲生の証言中、植物検疫申請を平成二年四月一〇日に提出した旨の証言部分は、客観的な裏付けを欠き、たやすく措信することができない。)。

三1  ところで、本件のように、生きた植物について、植物検疫申請の代行手続を含めその通関手続一切の委任を受けた被告としては、相当の注意を尽くして、合理的な期間内に遅滞なくその通関手続を完了すべき債務を負うものというべきであるところ、右認定したとおり、本件において、被告が船積書類の送付を受けてから通関手続が完了するまでに二か月弱もの期間がかかっており、本件ソテツの量が大量であったことを考慮しても、通常必要とされる期間と比較して著しく遅延したといわざるをえないから、この点において、被告には債務の不履行があったというべきである。

そして、前記認定のように、入港後、通関手続完了まで二か月弱経過していること、本件ソテツのうち、かなりの本数について葉の枯れ等の被害が発生していること、もともと品質に異常があったとか、輸送中の保管に問題があったと窺わせる事情はないことなどを総合考慮すれば、本件ソテツに葉の枯れ等の被害が発生したのは、通関手続の完了するまでの間、長期にわたりコンテナ内に収納された状態が続いたことによるものと推認するのが相当であり、被告の右債務不履行によるものというべきである。

2  被告は、抗弁として、本件において通関手続の完了が遅延したのは、検疫スペースが確保できなかったこと、植物検疫日が実質的に制限されていたこと、検疫日当日の作業員の確保、天候、ゴールデンウイーク前後の検疫貨物の混雑、燻蒸倉庫手配の困難性等の事情によるものであって、被告の責めに帰すべき事由によるものでない旨主張する。

そして、証人佐藤健一の証言中には、右主張にそうかのごとき証言部分もみられるが、検疫日は月曜、水曜、金曜に限られているとの点については、〈書証番号略〉により、当時、検査場所を大黒C―1とする検査が、四月一九日、二〇日、二三日、二四日に実施されていることが明らかであって、同証人の証言と矛盾していること、検疫スペースや作業員の確保についても、住友倉庫の都合というだけで、具体的にどのような支障があったのか定かでないこと、また、検疫貨物の混雑とか燻蒸倉庫手配の困難というのも、同証人の供述だけで、これを裏付ける具体的な資料がないこと、そもそも、同証人は、本件に関する具体的な作業に直接関与したことがなく、部下から報告を受けているにすぎない立場にあったことなどからすれば、右証言部分からは、直ちに、前記遅延について、被告の責めに帰すべき事由がなかったと認めることはできないというべきである(むしろ、前記認定したところからすれば、本件において通関手続が遅延した背景には、被告の担当職員が生きた植物の通関手続を取り扱った経験がなく、検疫申請の手続、手配、燻蒸作業の手配などについて不慣れであり、適切な対応、準備ができなかったということがあったのではないかと窺われる。)。

したがって、被告の抗弁は理由がない。

四次に、被告の右債務不履行による原告の損害について検討する。

1(一)  枯死による損害

〈書証番号略〉によれば、通関手続完了後の本件ソテツの状態については、健全な状態にあるものから、質は低下しているが生き生きした葉も見られるもの、葉が全部枯れているものなどまで、様々であることが認められるが、インテコ・ジャパン・リミテッドの調査結果(〈書証番号略〉)によると、本件ソテツを再生させるための移植及び保守費用についても検討しており、その再生のための移植の対象として本件ソテツ五一〇本全部を挙げており、このことからすれば、当時の状況では、未だ本件ソテツが枯死していたとはいえず、移植の効果を待つ状況にあったと窺われるし、〈書証番号略〉によれば、現に本件ソテツは、平成二年七月三日に静岡県清水市に運搬され、移植されたことが認められるのである。ところが、右移植後の本件ソテツの状態については、本件全証拠によっても全く不明であり、枯死したのか、再生したのかも定かでない。

したがって、原告は、本件ソテツのうち三一六本が枯死した旨主張しているが、これを認めるに足りる証拠はなく、枯死したことによる損害をいう原告の主張は理由がないというほかない。

(二)  仮植え費用

〈書証番号略〉、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件ソテツの再生ないし養生のため、平成二年七月初め、静岡県清水市の静鉄緑化土木株式会社に依頼して、本件ソテツを移植したこと、その結果、原告は、仮植え、管理費用等として三八三万一六〇〇円、ビニールハウス代金として九二万七〇〇〇円、運搬費用として八〇万五四六〇円の合計五五六万四〇六〇円の費用を負担したことが認められる。

したがって、被告は、本件債務不履行による損害賠償として、原告に対し、右五五六万四〇六〇円を支払うべき義務がある。

(三)  再仮植え費用

原告は、本件ソテツを次年度(平成三年度)他の場所に再度仮植えすることを前提に、その費用を損害として請求するが、再度の仮植えが必要とされる合理的な理由は定かでなく、また、現実に再度の仮植えを実施したのかどうかさえも明らかでないのであって、原告の右請求は認められない。

(四)  逸失利益

原告は、本件ソテツを二五万ドルで訴外研究所へ売却する予定であった旨主張し、〈書証番号略〉及び証人林雅彦の証言中には、これにそう記載及び証言部分があるが、他方、本件ソテツは通関後一時置かせてあげただけであるとして、その買受けの点について全く触れられていない訴外研究所の書面(〈書証番号略〉)が存在すること、二五万ドルもの高額な取引ついて売買契約書がないのは不自然であることなどからすると、右記載及び証言部分はたやすく採用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、右売却予定の事実を前提とする逸失利益の主張は理由がない。

(五)  調査費用

原告は、本件ソテツの被害状況についての調査に要した費用を請求するものであるが、右は、被告の債務不履行による損害の有無、程度を調査するための費用であって、被告の債務不履行自体による損害ということはできないから、原告の右請求は理由がない。

五本訴請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

以上のとおりであって、原告の本訴請求は、本件ソテツの仮植え費用合計五五六万四〇六〇円とこれに対する平成二年一一月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がないことになる。

(反訴請求について)

反訴請求原因は、被告が原告の依頼を受けて行った業務の代価の点を除きすべて当事者間に争いがない。そして、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、反訴請求原因2の(二)、(三)の業務の代価は、合計三一三万七〇〇〇円であり、同3の(一)の業務の代価は、合計八〇万五四六〇円であることが認められる。

右事実によれば、被告の反訴請求は理由がある。

(結論)

したがって、原告の本訴請求は、五五六万四〇六〇円及びこれに対する平成二年一一月六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、被告の反訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐藤久夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例